15日、南氷洋を航行中の捕鯨船日新丸に火災が発生し、乗員1名が行方不明になる事故があった。2日後にほぼ鎮火し、船内の火元と見られる場所で日本人男性の遺体が発見されたのだが、おそらく日本のニュースでフォローされたのはここまでだろう。でも、ニュージーランドではここからの騒動が大きく報道された。
実は、日新丸は火災の前日までグリーンピースの抗議活動の標的となっていた。火災が発生し救助信号を出したとき、グリーンピース船は燃料補給のためにオーストラリアに向かっていたのだが、捕鯨船団以外では日新丸に一番近くにいたために、急遽、引き返した。ところが日新丸は「環境テロリストの助けは受けない」と救援を拒絶。これに対しグリーンピース側は「今、我々にとって一番大事なのは日新丸の乗員の命であって、それ以外の理由は何もない」。つまり、非常事態に政治的な判断を持ち込むべきではないという正論(建前半分であっても)で応えた。
こうなると立場的に弱いのは、人の命よりもプライドにこだわっているように見える日新丸の方だ。しかも、日新丸はエンジンにダメージを受けていて自力航行ができない状態。曳航してもらうにも、仲間の捕鯨船では力不足ということが判明していた。
皮肉なことに、グリーンピースの船・エスペランザは元ロシアの消防船であり、海難事故に対応する装備は完璧。さらに船長はサルベージ船を10年間操っていた経験を持つ曳航作業のスペシャリストだった。
つまり、誰が見ても人命を優先するならばベストの選択は、グリーンピースの救援を受け入れること、という状況になってしまったのだ。無論、ニュージーランドはこれを日本側に批判的な立場で報道した。
19日現在、たまたま穏やかな天候が続いている南氷洋で、「助ける」「助けはいらない」の珍妙な押し問答が未だ続いている。日新丸はエンジンの再始動を試みているが苦戦しているようだ。この顛末の結果はここから。